大舎営3日目 ~H.A.R.Aの反乱~

カブ
カブ

「チャレンジロックOK!?」
高い運動能力を誇る“スポーツハンター”は、ハンター広場に集まった スカウト達にこの“合言葉”を教えて、姿を消した。 彼は最後の試験の準備をする為に、会場に先行するようだ。おそらく合 言葉は“そこ”で必要となるのだろう。

試験会場までの案内はサングラスをゴーグルに替え、海水パンツをはい た“水陸両用スタイル”のパンダー校長が担当する。 アカデミーを出発し、集落を抜け、山の中に入ってゆく…かと思いきや、 校長は山道の途中にある小さなの橋から川へと下りていった。 スカウトも大人スタッフ達のサポートを受けながら、次々と河原へと降 りてゆく。 校長の川歩きの諸注意についての軽いレクチャーを聞いて、一行は足場 の悪い川を遡上していった。

山の水は夏でも非常に冷たいが、天気が良い為、むしろ 心地よい。樋から川に滝の様に注ぐ水を浴びる者、水に浸かりながら歩く者、まわりに水をかけてはしゃぐ者… 皆、思い思いに川を楽しんでいた。 しぱしの沢登りを堪能していると我々の前に“大きな岩と深い淵”が見えてくる。
そして、その大岩の上には先程別れたスポーツハンターと、そして何 故か彼の傍らには「ギョギョギョ」でお馴染みの“お魚ハンター”のさ かなさん”が佇んでいた。

どうやらここが試験会場らしい。
スポーツハンターが我々に提示したアカデミー最後の試験はズパリ
“チャレンジロック”。
大岩の上から自分の目標を叫んで淵にダイブする、言わばハンターと しての決意と勇気を皆に表明する試練である。 飛び込みには高低2段階のスポットが用意され、挑戦者はスポーツハ ンターの「チャレンジロックOK?」の問いかけに「OK!」と答え、 自分の目標や抱負を高らかに宣言してから、淵へとジャンプする。 謎の“さかなさん”登場は、模範演技の為だったらしく、「婚活がんばる!」と魂の叫びを放ちながら彼女は淵に飛び込んでいった。流石に魚だけあって水はお手の物である。 手順の説明が終われば、いよいよスカウト達の出番である。 真っ先に立候補をして元気良く跳びこんだWを筆頭に次々とチャ レンジロックから淵へとダイブしてゆく…。

叫ぶ言葉も「優秀組をとる」や「宿題頑 張る」などの一般的な目標が多かったが、 変わった所ではSの「トマトを克服す る」やTの「最優秀スカウトとるぞ!」が強い決意を感じさせて良かったと思う。 またカブスカウトではないもののベンチャー隊のO兄の「赤点回避!」も、 それを聞いた時のO母の表情も込みで大変面白かった。
ただ…首席ハンターのイーグルスカウトがダイブの時に叫んだ「新しい学校を創設するぞ!」という言葉は非常 に謎めいており、少なからず皆をザワつかせたものだ。
基本的にスカウトは躊躇無く淵へと飛び込んでいったが、中には高所を苦手とするスカウトもいた。 尻込みするU、あまりの恐怖に瞳いっぱいに涙をためたY、岩の上で硬直した様に立ち尽くすデンコーチのT…。 彼らにとって、この試練は非常に過酷なものであっただろう。それでも彼らは跳んだ!その姿は感動的で価値あ るものだったと私は感じた。ナイスブレイブだったと思う。 最後にベンチャーの演技(強いジャンプ力で飛距離を出したIに、爆宙を決めたOの両名の模範演技は素晴 らしかった…)を締めに終われば非常に美しかったのに、よせば良いのにここで、まさかの“パンダコール”が起 こったのである。 実はパンダー校長は高所が大変苦手で、基本的にこういう場では、なんのかんのと理由をつけて断ってきたのだ。 しかし、今回は直前にUやTの勇気、Yの涙を見てし まった…流石にこの時ばかりは逃げるわけにはいかない。 校長は長時間つかっていた水の冷たさと、恐怖にガクガクと 震える膝をおさえ、フラフラとおぼつかない歩みでチャレン ジロックを登った。まさにゴルゴダの丘に十字架を背負って登るキリストの心境である。
岩の上から見る淵は想像より高く目眩がしたが、スポーツハ ンターの声は無情にも校長をダイブへと駆り立てる「チャレ ンジロックOK?」覚悟を決めた校長は「3年ぶりに鰻を食べるぞ!」と訳のわからない宣言をして、水面へとダイブした。

客観的に見ればショボくれたオヤジがパンダの帽子をかぶって、不格好に岩から淵へと落ちていったに過ぎない。 だが…誰が知ろう百尺下の水の心。 彼の心中では意外にもドラマティックでヒロイックな葛藤と決意があり、その一歩を踏み出させたのは幾人かの 少年少女の勇気だったのだ…まあ、スカウト達がワーキャーやってる裏で、こんな事もあったのである(笑)
全員が“チャレンジロックの試練”を乗り越えた後、皆で少し川で遊んだ。

再びチャレンジロックから飛び込む者、I父のゆるゆるウォータースライダーを楽しむ者、生き物採集に血道をあげる者など様々であ
った。
私はその“いきものさがし”の場所にいたのだが、この川は水が綺 麗な割には生き物が少なく、思っていたより収穫が少なかった様に思う。
その中で、小指の先ほどの黒いカエルを2匹捕まえたSとゴーグルの右目に小さなオタマジャクシ、左目にミ ズスマシを入れていたTが印象に残った。
帰路は舗装された車道を通ってアカデミーへと戻る。 往路に通った歩きにくい河原を眼下に望みながら歩く我々 は、水曜スベシャルでお馴染みの“川口浩探険隊”の様でもあ った。
かくして H.A.M.A での講習は全て終了し、後は卒業式を残す ばかりとなったのである。

 
『物語の終わりと始まり~3日目閉会式』
宿舎での最後の食事(定番のカレーライスであった…)を終 え、荷造りをすませ、後は最後のプロである閉会式を残すの みとなった。
今回の舎営は H.A.M.A という学校の訓練という設定だった 為、閉会式というより卒業式という方がしっくりくる感じだ (開会式も入学式だったしね…)。
ジリジリとした真夏の太陽が日陰を駆逐する最も日差しが 力強く、暑い時間帯での卒業式であった為、各スピーチを短 めにしたショートバージョンでの進行である。 行事の最後の最後に熱中症でスカウトが倒れたら、それこそ目もあてられない。
これまで何度となく歌ってきた“校歌『狩りの歌』”の最後の斉唱を行い、いき なり卒業証書の授与へと移る。
H.A.M.A での全課程を終了したスカウト達にハンター協会の講師陣が下した判 定は…全員無事卒業!

彼らにはハンターの証として“まいんさん・F”謹 製マクラメ編みのチーフリングが授与された。 これは一目で研修期間がわかる優れモノで、ハンタ ーとしてのライセンスと卒業証書を兼ねたものな ので、絶対に無くさないようにしてほしい! これでスカウト達は、ようやくハンターとしてのス タートラインに立ったのである。
その後セレモニーは順調に進み、めでたく卒業式は終了。何故かパンダー校長の音頭で団歌を歌い、H.A.M.A の 寮の前で全員で記念撮影を行って、後は箕面に帰るのみ…という所でひと波乱があった。 バスに乗り込む直前の我々の耳に“声変わり前の少年の様な高い声”が響き渡る。この声は“イーグルスカウト” だ。 彼女は「ひとつ話がある」とことわりを入れた上で「私は新しい学校を創設する。」とチャレンジロックで宣言し た言葉を今一度繰り返した。

狼狽えるパンダー校長を尻目に、彼女は「H.A.M..A をぶっ壊す!ご唱和下さい。」とスカウト達を猛烈な勢いて 煽動した。
驚いた事に彼女の熱に乗せられたものか、結構な数のスカウト達が「ぶっ壊す!」とイーグルスカウトにレスポンスを返したのである! 何かを言いかけたパンダー校長を制して、イーグ ルスカウトは「あんたにはもうウンザリなんだ よ!」と畳み掛け、言いたい事を言うだけを言っ てしまうと、イーグルスカウトは「箕面に帰る ぞ!」と宣言してスタスタとハンター広場を立ち 去ってしまった。
後に残ったスッキリしない空気に耐えかねたモノか、パンダー校長も「じ、じゃあ後はK副長よろしく…」と へどもどしながら、その場から退場した。
何かが起こっている…誰も知らない所で何かが動きだしている。 かくして最後の最後にモヤモヤした幾つかの謎を生み出して、2泊3日の夏季大舎営は幕をおろしたのである。